小さなタイマーを横に置き、紙に考えを書き出している若手社員

1よくあるつまずき

「来週の会議資料、いい感じにまとめて」と打ち込み、出てきた案を見てから「何か違う」と気づく。けれど、どこが違うのかをうまく説明できず、言い方を変えて何度も頼み直す。気づけば、自分で作った方が早かった。

研修でAI活用の演習をすると、最初の依頼文が1〜2行で終わる方がかなりいます。その方に「本当は何がほしかったのか」を口頭で聞くと、条件が5つも6つも出てきます。条件は頭の中にありました。書かれていなかっただけです。

2考え方

AIは、書かれていないことを補えない

AIは、依頼文に書かれた範囲で、もっともありがちな答えを返します。誰が読むのか、何に使うのか、どこまで詳しく書くのか。書かれていない部分は、一般的な前提で埋められます。返ってきた答えが平凡に見えるのは、このためです。

書き出すのは、整った文章ではなく材料

ここで必要なのは、きれいな依頼文ではありません。頭の中にある材料を、順番を気にせず外に出すことです。VASEメソッドでは、これを可視化する力と呼んでいます。整理は、材料が見えてからで間に合います。

3分で書き出す4つの問い

  • 目的:何のために使うのか
  • 相手:誰が読む・聞くのか
  • 必須要素:最低限これだけは入れたいことは何か
  • 避けたいこと:やってほしくないことは何か

4つ全部に答えられなくても構いません。答えられなかった問いは、自分の中でまだ決まっていないことです。それがわかるだけでも、AIとのやり取りはずっと短くなります。

3演習

所要時間の目安:5分

次の依頼を、AIに送る前提で考えます。タイマーを3分にセットし、4つの問いに沿って、思いつくことを箇条書きで書き出してください。文章にする必要はありません。

新しく入った派遣スタッフ向けに、社内の経費精算のやり方を説明する文書を作ってほしい。
解答例と解説を見る

書き出しの例です。

  • 目的:初日に読んで、翌月の精算を一人でできるようにする
  • 相手:経費精算の経験はあるが、当社のシステムは初めての派遣スタッフ
  • 必須要素:締め日、領収書の原本の提出先、システムへのログイン方法、よくある差し戻しの理由
  • 避けたいこと:社内用語をそのまま使う/長すぎて読まれない

これをもとにした依頼文は、たとえば次のようになります。

新しく入った派遣スタッフ向けに、経費精算の手順書を作ってください。読む人は経費精算の経験はありますが、当社のシステムは初めてです。初日に読んで、翌月の精算を一人でできることがゴールです。締め日、領収書原本の提出先、システムへのログイン方法、よくある差し戻しの理由の4点は必ず入れてください。社内用語は使わず、A4で2枚以内にまとめてください。

解説

最初の1行の依頼と比べると、AIが推測しなければならない部分がほとんど残っていません。「長すぎて読まれない」という書き出しは、依頼文では「A4で2枚以内」と数字に置き換えています。

書き出しの段階で、締め日や提出先を自分が正確に知らないと気づいた方もいると思います。それは、AIに頼む前に担当部署に確認すべきことです。書き出してみて初めて、何が足りないのかが見えてきます。

4今日から試す実践ポイント

  • AIの入力欄を開く前に、メモ帳かノートに4つの問いを書き、3分だけ埋める
  • 答えられなかった問いは、依頼文に「〇〇はまだ決まっていないので、2案出してください」と書き添える
  • 返ってきた答えに違和感があったら、頼み直す前に、4つの問いのどれが抜けていたかを確かめる
  • 同じ種類の依頼が続くなら、4つの問いの答えをひな形として保存しておく

この習慣は、AIに限らず、部下や同僚に仕事を頼むときにもそのまま使えます。

IN TRAINING

研修では、この先まで深めます

ここで取り組んだのは、「可視化する力」を鍛える演習のひとつです。研修では、同じ考え方を使って、受講者の実際の仕事に近い形で練習を重ねます。

  • 題材は、貴社の実務

    実際の報告書や会議資料、顧客とのやりとりを題材にして演習します。明日からの仕事にそのまま持ち帰れます。

  • 講師が一人ひとりにフィードバック

    自分では気づきにくい言葉のクセを、その場で指摘し、言い直しながら身につけます。

  • VASE診断で変化を確かめる

    研修の前後に64問の診断を行い、4つの力の変化を数値で確かめます。教育担当者の方には組織インサイトレポートをお渡しします。