資料を広げて熱心に説明する若手社員と、首をかしげる顧客

1よくあるつまずき

システム部門の担当者が、営業部長に障害の状況を説明する。「データベースの接続数が上限に達して」と話し始めたところで、「で、お客様への影響は?」と遮られる。

お客様への提案で、自社のサービス名や機能名を並べて丁寧に説明する。最後に「結局、うちにとって何がいいんですか」と聞かれる。

技術職や専門職の方ほど、このつまずきを経験しています。正確に伝えようとするほど、自分の分野の言葉が増えていくからです。

2考え方

伝わらない説明に共通する3つのこと

  • 自分の言葉で話している:専門用語、社内用語、略語がそのまま出ている
  • 相手の関心から話していない:相手が知りたいこと(影響、費用、判断の材料)より、自分が知っている順に話している
  • 話の細かさが合っていない:判断したい相手に細部を、作業する相手に概要だけを話している

相手が「何を判断するか」から逆算する

VASEメソッドの表現する力は、相手や状況に合わせて、言葉や伝え方を調整する力です。調整の出発点は、相手がこの説明を聞いて何を判断するのかを考えることです。上司なら「対応が必要か、いつまでに何をすればいいか」。お客様なら「自社にとって何が変わるか」。そこから話し始めます。

言い換えの手順

  1. 説明の中の専門用語・社内用語に印をつける
  2. 印をつけた言葉を、相手がふだん使う言葉に置き換える
  3. 置き換えられない言葉には、一言の補足を添える

3演習

所要時間の目安:10分

次の報告を、ITに詳しくない営業部長に向けて言い換えてください。

本日10時ごろから、受注管理システムのDBサーバーで高負荷が発生し、APIのレスポンスが著しく遅延しています。現在、インフラチームでスロークエリを特定中です。暫定対応としてバッチ処理を停止しました。
解答例と解説を見る

言い換えの例です。

今朝10時ごろから、受注管理システムの動きが非常に遅くなっています。お客様からの注文は受け付けられていますが、画面の表示に時間がかかる状態です。現在、原因を調べています。影響を広げないため、夜間にまとめて行っている集計の処理を一時的に止めました。復旧の見通しがわかりしだい、改めてご報告します。

解説

元の報告は、システム部門の中では正確で、無駄のない文です。けれど営業部長が知りたいのは、「お客様に影響が出ているか」「自分が何かする必要があるか」です。言い換えでは、注文を受け付けられているかどうかという、相手の判断に必要な情報を先に置きました。この情報は元の報告にはありません。言い換えようとしたことで、抜けていた情報に気づけたわけです。実際の報告では、確認してから書き加えます。

「DBサーバー」「API」「スロークエリ」は、相手の判断に要らない言葉なので省きました。「バッチ処理」は、省くと何を止めたのかがわからなくなるため、「夜間にまとめて行っている集計の処理」と補足して残しています。

4今日から試す実践ポイント

  • 説明の前に「この人は聞いたあと何を判断するのか」を一言で書いてみる
  • 報告メールを送る前に、専門用語と社内用語に印をつけて見直す
  • 一つの内容を「上司向け」「お客様向け」「同じ部署向け」の3通りで言い換えてみる
  • 相手から質問が出たら、それは説明に入れるべきだった情報だと考え、次に活かす

IN TRAINING

研修では、この先まで深めます

ここで取り組んだのは、「表現する力」を鍛える演習のひとつです。研修では、同じ考え方を使って、受講者の実際の仕事に近い形で練習を重ねます。

  • 題材は、貴社の実務

    実際の報告書や会議資料、顧客とのやりとりを題材にして演習します。明日からの仕事にそのまま持ち帰れます。

  • 講師が一人ひとりにフィードバック

    自分では気づきにくい言葉のクセを、その場で指摘し、言い直しながら身につけます。

  • VASE診断で変化を確かめる

    研修の前後に64問の診断を行い、4つの力の変化を数値で確かめます。教育担当者の方には組織インサイトレポートをお渡しします。